研究概要 |
平成19年度は,西園寺家当主,西園寺実氏を含め二十六人の歌人による十題,百三十番の宝治元年(1247)『院御歌合』について,各研究機関所蔵の写本の影印本を取り寄せた上で,諸本の校合,本文の確定,語釈,通釈といった注釈作業を,研究協力者との合同注釈報告会を数回にわたって行った上で進めた。宝治元年『院御歌合』は,後嵯峨院政初の大規模な歌合である。院評定衆,関東申し次ぎ,そして後嵯峨院の外戚という後嵯峨院政におけるキーパーソンである西園寺実氏の,<晴れの場>である歌合における出詠和歌作品を詳細に読解することで,実氏の作歌技量を把握することや,実氏が和歌作品に託した政治的主張を解明することを目的とする。そしてこれらの基礎作業を行った後に,西園寺公経-実氏-公相-実兼とつづく鎌倉時代歴代西園寺家当主の和歌作品を射程に入れて,西園寺家と和歌活動の相関関係等を浮き彫りにすることを狙いとしている。平成19年度は,「宝治元年『院御歌合』注釈-「初秋風」」(『尾道大学芸術文化学部紀要』第7号・平成20年3月),「宝治元年『院御歌合』注釈-「海辺月」」(『表現技術研究』第5号・平成20年3月)の二論文で,その成果を公刊した。これらの注釈作業を通して,西園寺実氏の作歌能力の度合いを再検証することができた。また,後嵯峨院や藤原為家,蓮生,といった後嵯峨院歌壇の主要歌人の和歌作品も同時に読解しており,それぞれの歌人の家風や,出詠歌に託した狙い等も徐々に明らかになっており,これらの成果を踏まえて,平成20年度も『院御歌合』の注釈作業を引き続き行うことで,西園寺家を中心とする後嵯峨院歌壇全般の考察を進め,それらの結果をもとに,鎌倉時代西園寺家像の再構築を志向するものである。
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