今年度は、西山宗因と加藤家を中心とする武家文化との相関性を明らかにするため、宗因評点巻と宗因紀行文につき、調査・資料収集・分析を行った。 宗因評点巻については、柿衞文庫所蔵『得能通広連歌集』、同蔵作者未詳俳諧点巻など、連歌・俳諧資料の原本にあたりつつ、資料収集と分析をおこなった。その結果、宗因評点のあり方は、連歌と俳諧の場合で大きく異なるものの、寛文から延宝期の地方作者、殊に西日本の大名・家老層に対し、幅広く指導を行っていたという実態が解明されつつある。調査の過程で、新出・個人蔵の宗因評点巻も寓目し得た。その詳細については、次年度以降、学術誌上において紹介する予定である。 宗因紀行文については、『肥後道記』の典拠と主題を分析した結果を、論文「『肥後道記』の典拠と主題」にまとめ、学会誌『近世文藝』第88号に投稿し、掲載された。また、『津山紀行』の諸本と本文を精査し、その異同の意味について考察した。さらに、『津山紀行』の典拠が、和歌・漢詩・謡曲に及ぶことを確認したうえで、津山藩主・森忠政と加藤家との関わりについて、『森家先代実録』等に依りつつ調査を進めた。『筑紫太宰府記』については、広く伝本を求めたが見出せず、諏訪史料叢書所収本の字句を訂するに留まった。 なお、上記の過程で、新出宗因短冊5点と、新出宗因書簡1点にも接し得、それぞれ年次を推定し、伝記研究に前進するところがあった。
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