昨年度に引き続き、金剛寺蔵<佚名孝養説話集抄>とその周辺資料の調査研究を進めた。 1、<佚名孝養説話集抄>の基礎的研究。翻刻を『伝承文学研究』58に発表した。また、国際仏教学大学院大学学術フロンティアのプロジェクトにおいて、龍谷大学古典籍デジタルアーカイブセンターに、本書を含む金剛寺所蔵文献12点の料紙調査を依頼する機会があり、自身もその調査に参加して、デジタル顕微鏡による観察等の調査を行った。調査の概要は、国際仏教学大学院大学学術フロンティア広報誌『いとくら』4号(2008年)に掲載された。 2、<佚名孝養説話集>の内容検討。書写年代について、当初考えた12世紀を再検討した。書写については、やや下る時期に訂正を要するが、内容的には各説話の古い形を残していると結論した。また、本書所収説話と経典における本生諺との比較を行った。本書所収説話は、法華経等の大乗仏典に見られる菩薩行を重視した本生譚に近い内容と言える。また、日本撰述偽経とも類似しており、この点は、日本撰述の偽経の問題や、偽経と説話との関係を解明する糸口になると考えられる。これらの検討結果の一部を、説話文学会において口頭発表し、その論文を校正中である。また、徳田和夫編『お伽草子百花繚乱』(笠間書院)では、「談義唱導とお伽草子」と題して本地物の淵源を探る資料の一つとして本書を示した。 3、関連資料の調査研究。昨年度同様、国際仏教学大学院大学所蔵の金剛寺聖教画像データによって、金剛寺聖教の概要把握に努めた。金剛寺聖教のうち、説話関連資料については、金剛寺において調査を行った。他に、金剛寺所蔵の長寛三年写『観無量寿経』と平安後期写『百願修持観』の研究を行った。ともに、日本の仏教や説話伝承を考える上で貴重な文献である。
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