研究概要 |
研究最終年度にあたる本年度は、引き続き小芝居各座変遷史・総合年表作成のための基礎調査を行うとともに、調査の統合を目指した。1.行政文書の調査とまとめ。東京都公文書館で調査した行政文書類を整理し、年表作成のための基礎作業を行った。2.役者・演目に関わる調査。本年度は特に同志社大学図書館・関西大学図書館・大阪府立中之島図書館に赴き、多くが明治期の歌舞伎作品の原作となった三遊亭円朝の速記本を調査し、明治期の役者の動向を知るための番付の調査を行い、収集(複写)した。また『仮名読新聞』や『歌舞伎新報』ほかの購入と調査により、明治期の役者の動向や演目についてさらに分析を進めた。3.データの入力と調査の統合。前年度において、明治11年頃深川において小芝居の座が設立され、その後、下谷、芝、牛込赤城などに続々と小芝居の座が設立されたことの詳細を明らかにしたが、今年度は明治10年代半ば以降の各座の座名変更や座主交替などの様相を解明した。さらに明治23年の劇場取締規則改訂により小芝居各座が正式に小劇場となった後、新規則に合わせるための改築・移転に困難を伴い、明治25,6年時点で消滅した座があったことを明らかにした。地域としては、麻布区・牛込区・下谷区から小劇場が消え、結果的に場所の統廃合が起こったことがわかった。この成果は「道化踊から小劇場へ-明治前期小芝居各座の興亡-」(『国文鶴見』44号)にて公表した。各座の土地での存立状況を解明するという新たな研究視点を得た。なお2010年4月に著書『歌舞伎の幕末・明治』を上梓した。これは本研究の直接の成果ではないが、著書をまとめる過程で小芝居の資料を見直し略年表も作成した。現在引き続き小芝居各座の変遷史と総合年表を作成中であり、小芝居各座の変遷を追う論考を準備している。
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