アジア文学・文化の『うつほ物語』への影響を明らかにするために、昨年度に引き続き、主に唐物(七絃琴)と樹木神話の調査研究を行った。 1、 [仏典引用]仏典引用については用例採取の基準が不統一であり、まだ公開には至っていない。基準を統一した上で再度用例を検討し、なるべく早く公開したい。 2、 [七絃琴・樹木神話]昨年度開催した二つのシンポジウムの成果について冊子化する機会を得、『アジきんア遊学 <琴>(きん)の文化史 東アジアの音風景』(勉誠出版)で、「『うつほ物語』の音楽と樹木神話」を執筆した。 3、 [七絃琴]余明氏(古琴奏者)に平安時代の琴曲を復元してもらい、その演奏風景をDVDに収録した。さらに、収録曲の解説を執筆した(上原作和氏・余明氏と共編『平安文学と琴曲 余明 王昭君を奏でる』フラッグメディアサービス)。 4、 [七絃琴]『うつほ物語』の忠こそ物語に『琴操』の影響があることを指摘した。 5、 [樹木神話]樹木神話について、『源氏物語』で浮舟が木の下で発見された場面について検証し、学会発表を行った。今年度は新たに唐代伝奇の影響を指摘したり、『うっほ物語』の樹木表象との差異を明らかにしたりした。現在、論文を執筆中である。 以上の研究を総合すると、孝子伝、琴操、ジャータカの織りなす世界が『うつほ物語』俊蔭巻の世界であると言えそうである。この点については、次年度、論文化する予定である。
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