研究概要 |
本研究は、アフラ・ベイン(Aphra Behn)の文学テクストにおける<他者>表象の多様性を、ジェンダー、政治、人種、階級、文化的振る舞いのコードなどの観点から明らかにすることを目的とする。本年度は、王政復古期の中心的劇作家達のテクストにみられる<他者>表象の特徴と、ベインのテクストとの差異を検証する作業を行った。その成果の一部を、十七世紀英文学会東北支部の2008年度第4回例会において、「見える感情、見えない女-Thomas Southerne, Oroonokoのドラマツルギー」という題目で発表した。トマス・サザンによるベインの『オルノーコ』翻案演劇は、「いかに感情を可視化するか」というドラマツルギーにのっとって作成されていることを指摘し、その結果、黒人女性が不可視へとおしやられてしまうことになる、この芝居の構造的な問題を確認した。サザンの『オルノーコ』は、白人中心の観客の中に、憐憫や同情といった感情を喚起させ、観客がそうした感情を発散させることを目指して作られており、その目的のために、ベインのオリジナルでは黒人だったヒロインのイモインダが白人へと変えられて、結果として黒人女性の表象を舞台から追放している芝居であることを論じた。その際、従来の研究では、黒入女性表象の不在を引き起こす言説的な権力関係に焦点が当てられがちなところを、本研究では、チャールズ・ギルドン(Charles Gildon)による『ベタートン伝』を参照しながら、この芝居では役者がどのような演技を志向し、それによって観客にどのような感情を喚起しようとしたのかという上演面の諸要素を分析したところに新味がある。また、観客が「泣ける芝居」を求めていたことを歴史資料から提示し、演劇が観客を泣かせることを志向するなかで、黒人女性が舞台に登場しなくなるという、イデオロギー装置としての劇場の機能を論じた点が、従来の研究とは一線を画すものである。
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