研究概要 |
本研究の2年目にあたる当該年度は、引き続き資料の調査・研究を行うとともに、初年度に得られた知見を成果として発表することにも力を入れた。この具体的な例としては、2008年4月に投稿した論文'Records and Recollections in Krapp's Last Tape'や、2008年9月7日に日本イェイツ協会で行ったイェイツの戯曲に関する学会発表が挙げられる。こうした成果発表では、20世紀のアイルランド演劇において、伝統的な<アイリッシュネス>の表象がどのように継承されているかが考察されている。 また、2008年8月にはロンドンの大英図書館へ調査・研究に赴き、そこで新たに得た資料や知見をもとに、当該年度の後半には「シェイクスピア以来、イングランド人によって作られた<ステージ・アイリッシュマン>という概念表象に対し、18世紀アングロ・アイリッシュ系の演劇人はどのような態度を示したのか」という、本研究の根幹的な問題の考察に入った。この成果の一端は、2008年11月24日に東北英文学会で行われた研究発表および、2009年3月発行の論文、'The Stage-Irishman's Stratagem : George Farquharand and the Emergence of the Smock Alley School'である。 前掲論文において、本研究者はまず、ステージ・アイリッシュマン表象とは、英国コロニアリズムの落とし子であることを確認し、王政復古期にはその内在的転覆性が消去され、無害な笑われ者と変化してゆくことを指摘した上で、ジョージ・ファーカーの戯曲に登場するアイルランド人たちの特徴を論じた。そこに描かれるアイルランド人たちは皆放浪者であり、彼は自らの作品を通じて、アイルランド人の持つ転覆性を復活させるとともに、現実のアイルランド人が置かれていた不安定な立場を表現していたのである, 本研究者は17世紀から18世紀前半までのステージ・アイリッシュマン表象の政治・文化的な変遷を追うことで、これまで個別にしか研究されていなかったハワードやファーカーの作品に通底する大きな流れを探り当てたといえる。
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