本研究は、19世紀アメリカ・ルネサンスの文学、特にナサニエル・ホーソーンの諸作品の研究に、昨今の生態学、歴史学、地理学、社会学、あるいは哲学など、様々な学問領域を横断する風景論や景観論という学際的な研究の成果を取り入れることで、作品に表象されている風景や、場所、空間などに内包された時代的イデオロギーを分析することを主眼とする。今年度は、当研究課題への取り組み最終年度ということもあり、主にこれまで三年間の研究成果を国内外で発表することを主な目標とした。二年間で収集した資料をもとに、昨年度博士号を授与された学位請求論文『ナサニエル・ホーソーンの場所表象-ウィルダネスからユートピアへ-』の出版に向けて、現在も原稿の整理や加筆修正に取り組んでいる最中であるが、発表としては以下の二点を行った。一つは6月3日から6日にかけて、カナダのビクトリア大学で開催された文学と環境の学会、ASLE(Association for the Study of Literature and Environment)の年次大会において、大会のテーマが「island」であったことから、ホーソーンの代表作『緋文字』と、日本は東京の向島を舞台にした作品を取り上げ、作品に表象されるメタファーとしての、あるいは地理的な「島」とヒロインとの関わりについて比較考察する国際学会発表を行った。もう一点は、同じく環境視点での文学批評を研究するエコクリティシズム研究会の年次大会で、「多文化主義的ネイチャーライティングの現在」と題するワークショップを主宰し、文学における環境とエスニシティとの結び付きを議論した。概して、古典アメリカ文学の作品分析に、風景論や「場所の感覚」といった最新のエコクリティシズムのアプローチを取り込んだことに、この研究テーマの大きな意義があったといえるだろう。
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