平成19年度は、今後分析の対象となる必要資料の収集を進めた。夏期に2週間、春期に10日程、米国ワシントンDCに滞在し、米国議会図書館でマーク・トウェイン作品が掲載されるか、またはトウェインへの言及がある中学・高校教科書の調査と収集を進めた。この調査によって、同図書館が所蔵する1900年代〜1950年代の資料の調査と収集はほぼすべて完了した。収集した大量の資料はすべて複写をとって年代ごとにファイルに分類し、それぞれの学校教科書における掲載作品の記録と、掲載教科書の書誌作成を行った。収集した資料の詳細な内容分析まで進めることはできなかったが、当初予測していたよりもかなり早い時期(最初期は1870年代)からトウェインがアメリカの中高の文学教科書や読解教科書(Reader)で取り上げられていたことが判明し、アメリカの教育現場においてトウェイン文学が早くから浸透していたことが明らかになった。また、20世紀後半においては、トウェインの代表作Adventures of Huckleberry Finn(1885年)が最も頻繁に文学教材として利用されたことは常識であるが、20世紀前半までは同作品よりも、むしろ西部旅行記のエピソードやスピーチといった現在注目されることの少ない初期のスケッチ風の作品の方が頻繁に教科書に登場しており、学校教科書を通してトウェイン文学への理解や評価の時代的変遷を垣間見ることができた。また、20世紀前半までの中高のアメリカ文学教科書では、ユーモアのセクションでトウェインが紹介されることも多く、明るい笑いの要素が強調される傾向が強いことが明らかになった。しかしその一方で、トウェインの真剣な社会批判やペシミズムへの言及がなされることは少なく、同文学の幅広い要素への理解や関心が、20世紀前半までは教育現場で必ずしも浸透していなかったことも明らかになった。
|