研究概要 |
国際著作権条約が存在しない中、19世紀のアメリカや、当時はまだイギリスの植民地であったカナダではイギリスの著作者による作品は非常に多数出版されていた。本研究は、このようなイギリスの文学作品との競合を余儀なくされるという状況の中、アメリカ・カナダの文学者たちがいかにして独自の文学を確立・発展させていったのかについて、1830年以降活発に行われた国際著作権法の是非をめぐる議論との関係に着目した研究を行うことを目的としている。 本年度は19世紀から20世紀前半にかけての、英米両国の出版業の実態、国際著作権法の是非をめぐる議論を整理することに力点を置くとともに、アメリカでイギリス人著作者の作品を出版したケアリー・アンド・リー、ハーパーなどの出版社がイギリス人の著作者や出版社との間で行った交渉などについて調査した。著作権法、出版史関連の書籍を入手し、平成20年2月下旬から3月初めにかけてイギリスの大英図書館、ロンドン大学図書館とフランスの国立図書館で文献調査を行った結果、アメリカの出版社は合法的にイギリス人著作者の作品を、著作権料などの支払いをすることなく出版できた一方で、アメリカにおいて最初に出版することで市場において得られる有利な立場を確保するために、個別にイギリスの著作者や出版社に対して原稿の準備段階での引き渡しに対して支払いを行うケースも多数あったことが明らかになった。この成果の一部は、平成20年9月にコペンハーゲンで開催されるSHARP (Society for the History of Authorship, Reading and Publishing)の学会で発表する予定である。
|