研究概要 |
国際著作権条約が存在しないことは、19世紀のイギリス、アメリカ、カナダの文学者それぞれに様々な問題を引き起こしていた。イギリスの文学者は無断で自分の作品が外国でさかんに出版される状況に憤りを感じ、アメリカ、カナダの文学者は自国にあふれる安価なイギリスの作品との競合を余儀なくされるという状況の中で苦しい戦いを強いられていた。そのような状況の中、アメリカ・カナダの文学者たちがいかにして独自の文学を確立・発展させていったのかについて明らかにすることを目的として研究を進めている。 平成20年度には、(1)19世紀から20世紀のイギリスにおけるアメリカ文学論の展開とその特質、(2)19世紀における国際著作権法に関するイギリス、アメリカ、カナダにおける議論、(3)アメリカ、カナダ両国におけるイギリス作品と自国の文学者による作品の出版状況、(4)アメリカ、カナダにおける独自の文学の成立・発展をめぐる議論についての研究を行った。 特に(2)については集中して研究を進め、ディケンズの作品のアメリカをはじめとする外国での出版をめぐる議論や出版業の慣例等について論じた2編の論文、そしてアンソニー・トロロープがメンバーとなりイギリスのその後の著作権政策の在り方について提言した1876年の王立委員会の貢献についての論文にまとめ『知財研フォーラム』において発表した。 また、1820年代にはアメリカを代表する出版者で、後に経済学者となったヘンリ・ケアリー(Henry Carey)が提起した国際間の著作権保護に関する議論の特質と変遷について考察を加え、コペンハーゲンで9月10日から12日にかけて開催された、SHARP(Society for the History of Authorship, Reading and Publishing)の学会で口頭発表を行った。
|