本研究の目的は、戦争に関わる20世紀ロシアのメディア文化において、異文化としての日本人表象と女性表象が、ロシア的オリエンタリズムのもとで重なり合うように形象化されていくプロセスを明らかにすることである。特に、オリエンタリズムの正当化と強化、男性本位の性規範の軍事化が、言説面でも視覚面でも典型的にあらわれる戦争時の活字メディアや視覚メディアを分析対象としている。 本年度は、今後の検証および考察への準備段階として、モスクワのロシア国立図書館およびその分館(新聞部)等で、データ収集作業を行った。第二次世界大戦時に発行された「プラヴダ」等有力3紙、「女性労働者」等有力2誌から、それぞれ言説および挿絵・写真にあらわれる日本人像および女性像のデータを集積した。その結果、日本人表象と女性表象が、戦争に関わる20世紀ロシアの活字メディアにおいて、〈衛生〉と〈純潔〉という共通キーワードのもとに結び合わせられ、それぞれオリエンタリズムやナショナリズムの強化、戦争の正当化の論理構造に組み込まれていく様相が明示化された。キーワードが抽出された点は、今後の本研究の理論化に向けて、重要な意味を有していると考えられる。
|