本研究の目的は、ロシアの文化において、戦争期(日露戦争及び第二次世界大戦)を中心に、日本人表象と女性表象が、ロシア的オリエンタリズムとジェンダー規範の交差する地点で形象化されていく過程を明らかにすることにより、ロシアの異文化形象化のパラダイムを検証する点にある。 平成21年度は、前年度の研究活動の成果である。日本側の事例研究として、日露戦争期の少女雑誌におけるロシアのイメージ・モデルの検証をふまえ、日露戦争後から第二次世界大戦前に至る日本とロシアの活字文化の中で、いかに表象としての日本及びロシア、日本人及びロシア人が変化していったのかについて分析・考察を行った。この成果の一端は、東京外国語大学において開催された講演「鏡のなかの日本とロシア-比較文学の視点から」にて口頭発表され、また講演内容をもとにした論文「鏡のなかの日本とロシア-宮本百合子『モスクワ印象記』とボリス・ピリニャーク『日本印象記』の比較を中心に」として公表された。視聴覚ヲディアでの異文化形象化めプロセスについての検証は途上にあるが、日露戦争後、第一次世界大戦から第二次世界大戦までの日本ソヴィエトの対外関係や社会状況において、それまでの書物から得た情報から形成された異文化イメージが、実地見聞に基づく紀行文においていかに変容し、それが活字メディアを通して各々の文化に流通していったかをめぐる考察に至ったことは、研究上の大きな意義であったと考えられる。
|