19年度は主に、早稲田大学図書館、国会図書館、外交史料館に所蔵されている東方文化事業、同事業の一環として設立された上海自然科学研究所、同研究所に入所した陶晶孫に関する資料の一部を収集し、整理を行った。 外交史料館の東方文化事業に関する資料からは、上海自然科学研究所の中国人研究者は特選留学生から採用する案があったことを確認した。また、東方文化事業から補助金を受けていた医学団体同仁会の機関誌『同仁』等を通して、陶晶孫のように日本で医学を修めた留学生が同仁会、東方文化事業に取り組まれてゆく過程を確認することが出来た。その中には陶晶孫のみならず、陶晶孫のプロレタリア文学への興味に強い影響を与えたとされる、やはり医学生であった弟陶烈の姿もあったことがわかった。従来取り上げられてこなかった陶烈と陶晶孫の関係についても、今後充分に考察してゆきたい。 また、上記の資料から、従来刊行された陶晶孫の作品集には収められていない、陶晶孫の文章、また日本人による彼の作品の翻訳を見つけた。更なる調査を要するが、同作品は日本で最初に翻訳された陶晶孫の作品の可能性がある。さらに上記の資料を通して、従来明らかにされてこなかった、陶晶孫の1930年代の動向も新たに知ることが出来た。このことについては、別途陶晶孫に関する新資料としてまとめたい。 今年度は、中国で保存されている東方文化事業に関する資料の調査を行うが、引き続き国内に保存されている関連資料の収集、整理も行う。東方文化事業に陶晶孫をはじめとする日本留学出身者が取り込まれてゆく過程を確認した上で、新たに終戦時の国民党による日本文化機関の接収作業と日本留学出身者の起用について、日中両国の資料から調査を行う予定である。日本留学出身者であることが陶晶孫の人生、そして文学作品に及ぼした影響を引き続き考察したい。
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