東方文化事業に関与した帰国後の陶晶孫の活動について、医学研究と文芸の二つの面から資料調査、考察を行った。 医学研究面では、九州大学図書館で大学要覧などを閲覧して、陶と同時期に医学部に在籍した中国人留学生の帰国後の日本との関わりについて調べた。また国会図書館で上海自然科学研究所の同人誌『自然』に目を通して、日中の研究員の動向について考察した。中国では上海図書館と上海歴史梢案館で、日本留学出身者が創設、陶も教壇に立っていた東南医学院の要覧、同校に関する政府機関の文献を閲覧して、東南医学院と陶晶孫、そして東方文化事業との関わりを部分的に明らかにすることができた。そのほか、中国の研究者や上海自然科学研究所の中国人研究員の遺族に面会して、陶晶孫や戦時上海についての話をうかがうことができた。 文芸面では、昨年度収集した東方文化事業に関与した医学団体同仁会の機関雑誌『同仁』の資料整理を行った。同誌には陶の文章も含めて多数の日中の文学交流に関る貴重な文章が掲載されており、これらの文章を紹介する目録作りの基礎作業を行った。中国では北京社会科学院の図書館で29年に上海で刊行され、帰国直後の陶の作品が掲載された文芸雑誌『楽群』を閲覧して、上海図書館では、日中戦争中に日本統治下の上海で陶晶孫が作品を発表した文芸雑誌『光化』、『文帖』、『文芸世紀』、『文芸月報』を閲覧した。これらの文芸誌はいずれも元日本留学生が関与しているが、従来あまりその存在が知られていないので、収集した資料に丁寧に目を通してゆきたい。 今年度はこれまで収集した資料の整理を進めながら、目録作成と論文執筆の基礎作業を進めたい。また、引き続き日中両国で資料収集を行い、陶晶孫の上海での文芸活動についてまとめながら、東方文化事業の医学研究における陶晶孫、およびその他の中国人元日本留学生の取り込みに焦点を当てて考察を進めてゆきたい。
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