1.分析 広東語の談話活動におけるモダリティの主要な担い手として、まずは文末助詞という文法カテゴリーの体系的再整理を行った。文末助詞は「文が表す表現内容(=命題)をめぐって、発話場における種々の要請に動機付けられて行う、話し手の事態認識の仕方及び聞き手への発話伝達の仕方の表し分けを担う文法カテゴリー」であり、意味機能の異なる3つの下位類によって形成された階層的な構造を持つ。すなわち、命題のすぐ後に生起する2つの類は事態認識という命題寄りの表現態度を表し、命題から最も遠い、すなわち文の最も外側の位置に来る類は命題をめぐる発話伝達方略という聞き手寄りの表現態度の表示を担う。さらに、事態認識に関わる2類のうち、命題そのものの性質を規定する類と、話し手の立場から把握された命題の姿を描く類とが区別され、前者は命題の直後、後者はその外側に位置する。そして、ここで見られる<客体寄り>・<主体寄り>という意味的対立と構造上の位置関係との相関は、アスペクト、方向補語といった他のカテゴリーにも共通して見られる一般性の高いものであることが指摘された。 次に、発話伝達方略に関わる類の文末助詞の中からa3とwo3を取り上げ、その意味機能が発話の(一方的)発信であることを導き出し、両者の違いはそれが付く発話の種類が、a3は<声>、wo3は<情報>であるという、談話論的指標を用いた分析を提示した。さらにこれらと音声形態上類似する別の文末助詞a4、wo4、a5、wo5の分析にも<声>vs.<情報>の対立を応用し、各形式はこの対立と<取り込み>・<解釈案提示>という指標との組み合わせにより説明できることを論じた。 2.言語資料の電子化 実際の談話活動を反映すると見られる広東語言語資料10数点を、実例検索作業の効率化のため、データ入力会社に委託して電子化を行った。
|