本年度は引き続き、文末助詞としてモダリティ機能を表す"〓"(具体的な音声形態は後続の文末助詞の影響によって異なる)に着目し、その意味機能を明らかにするとともに、それが構造助詞の"〓"「~の」からいかなる意味機能特徴を引き継いでいるのかを論じた。あわせて、構造助詞の"〓"が見せるその他の機能拡張の諸相に着目し、その制約と方向性について標準語と比較対照しつつ広東語の文法体系に照らして説明を試みた。 具体的には以下の通りである。すなわち、先行研究が示すように、広東語では構造助詞"〓"を用いた連体修飾構造"M〓N"「MのN/Mという属性のN」は専ら総称的事物を表すのに使われ、特定的事物を表すには類別詞(CL)を用いた別の構造"M(+指示詞)+CL+N"が使われる。そのため、連体修飾構造"M〓N"及びそこから中心語名詞が落ちた名詞化構造"M〓"「Mの」はともに強い総称性を示す。このような構造助詞"〓"が持つ意味機能特徴は"〓"のその後の機能拡張における制約や方向性を次のように特徴付ける。 1)"S(係)V〓O"構文の欠如:標準語には特定の既然行為の属性措定を行う判断文として構造助詞"的"「~の」を用いた"S(是)V的O"という構文が存在するが、同様の構文は広東語では成立しない。これは"M〓N"構造が総称事物を表すものであり特定事物の属性措定を行う判断文としてそもそも機能しないため、特定動作行為の属性措定へと機能拡張が起こる基盤がないからである。 2)条件節標識としての機能獲得:総称文は意味論的に常に条件文を導出する。ゆえに"M〓"を主語(主題)においた総称文が次第に再分析を受け"〓"そのものが条件節標識と解されるようになった。 3)命題一般化を表す文末モダリティ助詞の機能獲得:"文+〓"のように文末に置かれる"〓"は、文が表す命題から一回性・個別性を捨象し、一般化・総称化する機能を果たす。
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