研究概要 |
平成22年度は,これまでの研究(1.オノマトペにおける非対称性,2.新造オノマトペの音韻特性,3.部分反復オノマトペの語形成,4.短縮語・混成語の形成に影響する音韻特性)を踏まえ,韻律語形成過程に働く機序について考察を進めた。重要な成果としては,1)部分反復オノマトペでの反復辞生成の機序を制約階層を通じて一般化し,いわゆる「無標形の表出」と呼ばれる文法性を見出したこと,2)部分反復過程において特殊モーラが不可視的な振る舞いを見せる理由を,鋳型の韻律構造(軽音節であること)の影響として明らかにしたこと,3)促音に関する音韻論的検討を通じて,オノマトペの語末促音の機能特性を明らかにする上で必要とされる音声学的問題を発掘したことである。これらのうち1)2)については研究論文で公表し,3)については重子音に関する国際ワークショップ(GemCon2011)での発表を通じて活発な議論を行うことができた。また,本年度は本研究課題の最終年度に相当するが,研究期間を通じて,日本語の韻律語形成過程における特殊モーラの諸特性を以下の点から明らかにできた。(a)特殊モーラが出力語形から排除されるケースでは,当該特殊モーラにおいて固有の分節構造が欠損していること。(b)特殊モーラの中でも促音は一般語彙の韻律語形成過程においては不可視的に振る舞いやすいが,オノマトペにおいては韻律調整要素として可視的に働くこと。(c)撥音は語種を問わず比較的安定で,アクセント形成や短縮などの局面において自立モーラに近似した振る舞いを見せること。なお,本研究ではオノマトペに関して当初の予測を越えて豊富な問題が見出されたため,結果として一般語の現象に関しては若干ながら課題も残ることとなったが,オノマトペに関して見出された本研究の知見は,語種間の性質の異同を探究する際にも今後十分に寄与し得るものと考えられる。
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