平成20年2月中旬から3月中旬にかけて行った現地調査(エチオピアのウォライタゾーン、ボディティ)が主たる活動内容である。 面接調査を主体として、既知の語を手懸りに、語の派生法やそれに伴うトーンの変更を丹念に調べた。この種の研究には厖大な資料が必要となるため、現段階では決定的な結論は出ていないが、幾つかの傾向を見出す事は出来た。又、同じ抽象名詞であっても派生法が異なれば微妙に意味が違うらしい事も分って来た。こうした研究は将来の辞書作成に大いに役立つであろう。一方、ウォライタ語はセム諸語と同じくアフロアジア大語族に属するとされているが、典型的なセム語とは語形成の点ではかなり異なっている。従って、本調査の結果は比較言語学的な考察に於いて重大な意味を持ち得る。 その他、文法の研究として、2系列存在する3人称代名詞の使用条件を単純な文だけではなく複文構造をも視野に入れて詳細に調査した。従来見逃されていた現象であり、一般言語学的にも引用文や再帰代名詞の本質に迫る上で重要な資料が収集出来た。この研究の準備の一環として位置付けられるのが平成19年5月に日本アフリカ学会で行った口頭発表であり、その際に得られたコメント等を面接調査に於いて役立てる事が出来た。 社会言語学的な側面として、現地での言語教育事情を調査する事も出来た。多言語社会は現代の言語学の重要テーマの一つであるが、アフリカの多言語使用の状況は不明な点も多く、充分に理解されているとは言えない。目下このテーマで論文を執筆中であるが、欧米中心の研究では見えて来ない視点を提供したいと思っている。 周辺言語に関しては、首都のアジスアベバ大学の図書館で幾つかの資料を閲覧出来た他には成果があげられなかった。だが、自分のフィールドには周辺言語の話者が比較的容易に見付かりそうであるので、来年度以降の研究に繋げていきたい。
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