平成22年8月16日から9月20日にかけてエチオピア南西部のウォライタゾーンで、面接調査を主とする現地調査を行った。それにより、日本では一次資料の収集が絶望的なウォライタ語とカンバタ語の調査を行う事が出来た。また、現地での言語使用の実態も観察することが出来た。 ウォライタ語に関しては、独自の口承文芸である謎々を新たに収集、分析することが出来た。日常耳にしないような語彙や表現を新たに採集することが出来たのはウォライタ語の語彙研究、辞書作成にとって大きな成果である。単なる日常語の分析にとどまらず、詩的機能・美的機能という観点からもアフリカの諸言語の本質を明らかにする必要性が今後は必要となろうが、そうした面でも興味深い題材を得ることが出来た。また、ウォライタの歴史に関して地域の長老が語ってくれたテキスト(これ自体は随分前に採集されたものである)の校訂・意味や文法構造の不明な箇所の確認作業も一通り終えることが出来た。今後は国内で出版に向けてより完成された形にする作業が残っているが、一つ山場を越えたことは間違いない。ウォライタ語の語彙研究、表現の特性の研究、文法研究、更には文化の研究にとって貴重な資料を提供する準備が整った、ということである。その他、数年来学会発表等で検討して来た引用構文の文法論的分析も今回の最終的な確認の上、論文の形にまとめることが出来た。先日日本言語学会の学術雑誌『言語研究』に投稿し、現在掲載可否の審査中である。 カンバタ語に関しては、残っていた文法調査を終了した。これで言語研究に最低限の情報を得たことになる。更には、幾つかの口頭テキストを採集・分析するにも到った。今後はこれらの資料の詳細な検討を通してウォライタ・カンバタ両言語間の系統関係・接触関係の研究が進められるであろう。
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