ロシア語の名詞のストレス位置には、これまでの研究から、a)固有語におけるスラヴ語の音調の残滓、b)借用語における原語のアクセント、c)類似の語末要素からの類推、d)各数のパラダイムにおけるストレス位置の水平化と数の区別による対照、という4要素がかかわっている可能性が考えられるが、これ以外に、e)語の音節構造、f)語の長さ(音節数)、g)語に含まれる母音の種類、といった要素がかかわっていないかどうかを確かめる必要がある。このうち、a)とd)についてはある程度整理されているが、b)とc)については近年の借用語の増大に伴って、より新しいデータに基づく分析が必要であり、今年度は新しい辞書類等の文献によりそのデータの収集を行った。このデータの分析は来年度の課題とする。さらに、ロシア語の名詞にアクセントのデフォルト性があるか否かというより根本的な問題に取り組むために、他の言語においてアクセントに影響を及ぼしていることが指摘されているe)〜g)の要素の分析が必要になる。これについて今年度は、日本国内におけるロシア語ネイティヴスピーカーに対する予備調査により、g)の問題に取り組んだ。その結果、文字'o'を含む無意味語の読み上げにおいて、ほかの母音よりもこの文字が表す母音を含む音節が有意にストレスを引き付ける傾向があるという予測の正しいことが明らかになった。ここから、来年度に計画されている本調査において、調査語の選定においてこのことの影響を考慮しなければならないことが示された。
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