中国四川省甘孜蔵族自治州雅江県および道孚県において、約4週間にわたる現地調査を実施した。雅江県においてはダパ語ダメ方言群の語彙調査をおこなった。道孚県においては、ダパ語メト方言の文法調査、および、民話や自然発話などのテクスト資料を収集した。調査で得た資料は、音韻表記で記録・入力して分析対象としたほか、音声ファイルおよび画像ファイルをDVD-Rに保存して、他の研究者にも利用可能な形にした。 また、北京故宮博物院において、本研究対象地域の言語を清代に記録した文献である『華夷訳語』の調査をおこなった。調査結果は現在データベース化しつつある。 現地調査の資料をもとに、ダパ語の分析を進めた。今年度は主に、証拠性、名詞化、格標識、方向接辞についての分析を進めた。証拠性についてはこれまでの分析をまとめ、論文の形で発表した。その中で、ダパ語において3種類の証拠性が区別されること、および、証拠性とは相関しつつ別のシステムとして視点表示の体系があることを明らかにした。方向接辞については、学会で発表し、直示的に方向を表示する機能と恣意的にアスペクトを表示する機能があり、一種の動詞類別がおこなわれていることを明らかにした。また、他の内容についても、研究会で発表し、研究討議をおこない、さらなる考察を進めた。 地域特徴の分析にも一部着手した。特に、人称表示と視点表示の相関について、同系のチァン語、スタウ語との対照をおこなった。この内容は研究会において発表し、研究討議をおこなった。
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