研究概要 |
この研究は、言語普遍性の現象のひとつとされる「共感覚的比喩」の「一方向性仮説」について、主な言語20を対象に調査を行うものである。なおこれまで英語と日本語以外の言語について調査は行われていない。 共感覚的比験に関する先行研究ではWilliams(1976)が代表的なものである。Williamsは「英語」における五感を表す語の意味の転用の方向性をいわゆる接触感覚(触覚、味覚、嗅覚)から遠隔感覚(視覚、聴覚)への一方向の転用であるとした(Williams(1976 : 463))。一方日本語についても、この英語の「一方向性仮説」が日本語にも当てはまるとする研究が多く、山梨(1988 : 60)では英語と基本的に同様の「日本語の共感覚的比喩体系」図が示されている。しかしここで提示されているデータの数はわずかであり、さらに検討する必要がある。 そこで本研究では「各言語の共感覚的比喰体系には、様々な多様性が認められる」という仮設を立て検証する。英語と日本語以外にも、公用語として使用されている言語のうち話者数の上位20を調査の対象とする。本研究は人間の生理学的普遍と文化等によって異なる経験的基盤との兼ね合いに関する考察であることから、言葉の意味に関する重要なテーマの一部を担うものである。 2007年度は、英語、中国語、タイ語、韓国語、ロシア語、スペイン語、マレー語、ベンガル語(計8言語)および日本語における「視覚→他の感覚」(一方向性仮説に反する例)および「触覚→他の感覚」(一方向性仮説に従う例)ついて調査を行った。得られた結果の一部をごく簡略に述べると、前者も後者も上位の言語は英語、日本語、中国語の3つであり、一方向性仮説に反する例が多く存在する。2008年度も引き続き5つの言語を対象に調査を行う予定である。 (引用文献) 山梨正明(1988)『比嶮と理解』(認知科学選謬17), 東京大学出版会. Williams Joseph M.(1976)"Synaesthetic adjectives : apossible law of semantic change", Language, 52 : 2. pp.461-477.
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