研究課題
この研究は、言語普遍性の現象のひとつとされる「共感覚的比喩」のいわゆる「一方向性の仮説」について複数の言語を対象に調査を行ったものである。なお、これまで英語と日本語以外の言語について調査は十分に行われていない。本研究では「各言語の共感覚的比喩体系には、様々な多様性が認められる」という仮説を立てて検証した。調査は大きく分けて3種行われた。調査Iでは、15の言語(中国語、英語、タイ語、ドイツ語、ダガログ語、韓国語、フランス語、ロシア語、アラビア語、マレー語、スペイン語、ベンガル語、ポルトガル語、スウェーデン語および日本語)における視覚と触覚を表す語についてデータを集め、分析を行った。得られた結果の一部をごく簡略に述べると、触覚からの転用表現の平均が39%であるのに対し、視覚からの転用表現は平均16%であることから、15の言語における共感覚的比喩の体系には概ね一方向的な傾向が認められるという点が明らかになった。調査IIでは、4つの言語(日本語、フランス語、英語、スウェーデン語)を対象とし、「五感内すべての転用表現」を取り上げ、分析した。その結果、やはり概ね各言語の五感内の意味の転用は仮説に沿うという結果を得た。但し、仮説に沿わない「嗅覚→味覚」および「聴覚→味覚」表現については、4言語とも転用の割合が高いという言語事実から、従来の一方向性仮説の共感覚的比喩体系に対してはこの2点について修正を加えるべきであると主張する。調査IIIでは今後の研究の発展に向け、スウェーデン語における「味を表す言葉」の収集についても調査・分析を行い、学会誌の論文にまとめた。これは本研究の趣旨である「人間の生理学的普遍と文化等によって異なる経験的基盤との兼ね合いに関する考察」に直接関わるものであり、この研究が今後も更に広がっていく可能性を示すものである。(引用文献)山梨正明(1988)『比嶮と理解』(認知科学選謬17)、東京大学出版会Williams JosephM.(1976)"Synaesthetic adjectives:a possible law of semantic change",Language,52:2.pp461-477.
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
『日本認知言語学会論文集』、日本認知言語学会
巻: 11(近刊)
The 2010 Seoul International Conference on Linguistics (SICOL-2010), Conference Papers (Refereed by Full Paper), Korea University, Seoul.
巻: (CD-ROM)