本研究は、チベット・ビルマ系言語に属するマンデビ語(Mangdebiklia:シナ=チベット語族、チベット=ビルマ語派、ヒマラヤ語支、チベット=キナウリ語群、東チベット諸語、Nyenkha、Henkha、Lap、Mangsdekhaとも称される)の記述的研究を行うものである。主として関連文献の収集及び現地調査を中心に行った。関連文献については、日本国内で刊行されたものはほぼ全て収集することができた。欧文文献についても同様である。現地調査に関しては、ブータン王国において話される少数民族言語について、現地調査を中心とした資料収集をおこない、記述言語学的研究を進めた。ブータン渡航時にはブータン国内の関係部署への訪問をおこなった。現地調査は各年度に一回ずつ、ブータン王国トンサ県及びワンディポジャン県においておこなった。主たる研究対象であるマンデビ語ツァンカ方言については、語彙調査のほか文法調査や自然発話の音声資料を収集した。このほか、周辺で話される諸言語の言語状況に関する調査もおこなった。今回の言語調査で、マンデビ語にはトンサ県でおこなわれている12方言とワンディポジャン県でおこわなれている5方言に分類できることが判明した。また、現地調査で得た一次資料をもとに、マンデビ語トンサ方言に関する記述言語学的並びに社会言語学的立場からの研究を進めた。このほか、周辺で話されるケン語シェムガン方言についても語彙調査をおこなった。マンデビ語の形態統語論は他のブータン諸言語とパラレルな現象が見られると言われているが動詞形態論においては非常に面白い現業も見いだされるため、慎重な分析が必要である。しかし、今のところ資料は十分ではなく、さらに多くの資料を収集する必要がある。談話資料を収集する必要性から、民話の収集も行った。これは、格標識が談話の中で果たす役割や、格標識の省略などを分析する上で必要な資料であると考えたためであり、今後も分析を継続する予定である。
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