研究概要 |
研究期間最終年度となる平成21年度は,以下の事項に取り組んだ。 上ソルブ語話しことばにおけるドイツ語の影響を明らかにするために,8月10日から9月1日までドイツ・ザクセン州バウツェン郡クロストヴィッツ村ならびにレッケルヴィッツ村にて現地調査を行った。本調査では,冠詞を持たない上ソルブ語において,冠詞的に用いられている指示詞ton「この」,数詞jedyn「1」の現れ方について,ドイツ語の冠詞との類似点,相違点を把握するための資料を収集した。この点については,論文として発表する準備をしているところである。また,この調査を通して,上ソルブ語における情報構造を明らかにする必要を認識するに至り,本研究課題をさらに発展させる道筋を立てることができた。 また資料アーカイブについては,前年度に引き続いて(1)アナログ音源の電子化ならびに(2)SILが配布しているブリーソフトウェアField Linguist's Toolboxによるテキスト資料電子化に取り組んだ。その結果,大部分の資料について,上ソルブ語テキストに日本語注釈と英語注釈を施した電子テキストコーパスを作成することができた。比較的まとまった量の電子テキスト集が整ったことにより,さまざまな文法事項についての考察を行うための基盤ができたと考える。このテキストコーパスをさらに拡充するために,そしてドイツ語との影響関係についての分析を円滑に進めるために,ドイツ語注釈を付す作業がさらに必要となるが,この点は今後の課題としたい。 以上のことがらにより,本研究課題における所期の目標はおおむね達せられたと考える。
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