研究課題
本研究は、言語理論および言語獲得研究における知見をもとに、特に幼児のあいまい文の理解を実証的に調査することにより、言語獲得において韻律情報が果たす役割を追求しながら、言語機能に関連する性質の獲得過程を検討する試みである。これにより、言語機能における統語部門と音韻部門の関係の解明、および言語獲得機構と運用機構の解明への貢献を目標とした。本年度における主な研究成果は以下のとおりである。前年度に行った予備実験の結果および英語や日本語の理論・獲得・理解に関する文献調査をもとに、日本語の主要部内在型関係節(以下、内在型)と英語タイプの関係節(以下、英語型)の解釈可能性を持つあいまい文を用いて、日本語を母語とする3-4歳児における内在型と英語型の知識の有無、および韻律情報の使用に関する実験を行った。その結果、実験参加児が大人と同等の内在型および英語型の知識を持つことが明らかになり、これらの獲得には言語機能の属性が関与しているという主張を支持した。同時に、参加児がこの種のあいまい文の統語構造を決定する際に、韻律情報よりも助詞に関する統語知識を優先的に用いる傾向が見られた。さらに、子どもがあいまい文の解釈において大人と同じ選好を持つことから、3-4歳児がすでに大人と同じ文解析のメカニズムを持つという提案を支持する結果となった。この研究成果は、平成20年9月に米国で行われた言語獲得に関する学会(GALANA)で口頭発表し、多くのフィードバックを得た。本研究の遂行により、あいまい文の解釈において、大人が(最終的に文法的と判断できるが)一時的に困難な方の構造が、子どもにとっても困難である(あるいは非文法的と判断する)点にさらに着目する必要性が生じ、この新たな課題が言語獲得機構と運用機構の有機的連関の解明に示唆を与える可能性を示した。
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Proceedings of the 3rd Conference on Generative Approaches to Language Acquisition North America (GALANA) (印刷中)
http://WWW.lingref.com/cpp/mainlist.html