名古屋方言プロソディーに関する3カ年の研究のうち、初年度は、とくにアクセント(トーン)の調査・分析を行った。インフォーマント調査(および録音作業)を複数回行うことによって、とくに単語の開始部分のピッチにおいて、音韻構造との相関が見られることを確認した。 また、上記に関して世代によってずれがあり、高年話者ではモーラに依存したトーン付与が行われるのに対し、若年話者では相対的に音節構造に依存したピッチ付与が行われることを確認した。 典型的な例を拳げると、伝統的に名古屋方言において「曜日」はアクセント核のない平板アクセントで発音されるが、その開始のピッチが世代によって異なる傾向を示した。 語頭2モーラが自立モーラの連続、すなわち、(1)のように軽音節連続の場合、その2モーラ(2音節:LL)は低ピッチの連続で発音され、そこが自立モーラと特殊モーラの連続、すなわち、(2)のような重音節(H=1音節)の場合は、高ピッチで発音される(●は高ピッチ、○は低ピッチの「モーラ」をそれぞれ表す)。これは世代にかかわらず共通して見られることで、Hに高いピッチを当てるという一般的な性質と共通する。 (1)にちよーび(○○●●●:日曜日)、げつよーび(○○●●●:月曜日) (2)きんよーび(●●●●●:金曜日) ところが、「かよーび」(火曜日)、「どよーび」(土曜日)などの語頭がLHの場合は、世代差が見受けられた。高年話者ではモーラのレベルで(1)と共通の(3a)の型で発音される傾向にあるのに対し、若年話者ではH全体を高のピッチにする(3b)の型が相対的に多く見られた. (3)a.かよーび(○○●●:火曜日)、どよーび(○○●●:土曜日) b.かよーび(○●●●:火曜日)、どよーび(○●●●:土曜日)
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