平成19年度は、「朝鮮資料」のうち、最も膨大な文献(全12巻)である『捷解新語』を中心に文献学・書誌学的考察を行った。学会に報告されていない国立中央図書館(韓国ソウル)『捷解新語』を含めて、九州大学文学部所蔵『捷解新語』、そして小倉文庫本『捷解新語』(東京言語学研究室)という、三種の異本の存在を確認した。以上の文献は、現地調査および複写本を通して、既存『捷解新語』との異動など異本間の照合作業を実施している。 現在、すべての異本『捷解新語』のデータベースを作成しているが、諸文献との比較・対照を通じて異本間の関係および、他の「朝鮮資料」に属する文献との関連性が明らかになると思う。同時にデータベース作成作業と密接にかかわる問題、つまり中・近世日本語を韓国語で記した「朝鮮資料」の性格から、仮名をいかに転写しているのかという、表記システムの問題や音韻面での諸問題を検討している。日本語と朝鮮語を比較・対照する方法で両国語の音韻史の資料として活用できると考えている。そして中・近世日本語の口語を再現してゆくために、当時の他の外国資料、ロドリゲスの『日本大文典』や『日葡辞書』などポルトガル人著作との比較検討も行なっている。今年度の研究成果を踏まえ、平成20年度は文法・語彙など全般的な問題まで進む。さらに、中・近世日本語と近代韓国語の特徴を明らかにするだけではなく、日本語史と韓国語史においての口語文法史の記述も試みる。
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