研究概要 |
本研究の目的は,英語史において動詞屈折接辞の衰退が統語的変化に及ぼした影響を実証的・理論的に明らかにすることである。今年度は,形態的変化の統語的影響を測定するための文献調査を行うとともに,形態論と統語論のインターフェイスに関する理論的研究を進めた。後者の成果を,研究発表欄に挙げた2本の論文として公開した。 "TheHistoryofAlive:TowardaRealizationalApproachtoGrammaticalization"では,接頭辞a-で始まる英語の形容詞(A類形容詞),とりわけaliveに焦点を当て,以下の3点について考察した。(i)現代英語におけるA類形容詞はどのような構造を持つか。(ii)英語史におけるaliveの文法化の過程はどのようなものであったか。(iii)aliveの文法化過程はどのような理論的含意を持つか。(i)については,A類形容詞が機能範疇を含む複雑な構造をなし,接頭辞a-がその機能的主要部に位置していると提案した。また(ii)については,中英語と初期近代英語の通時的コーパスにおけるonlifeとaliveの生起状況から,前者から後者への推移が叙述用法の環境において始まり,その後,後置修飾用法へと広がっていったことを明らかにした。さらに(iii)については,aliveの文法化の過程が,従来の文法化理論に対して経験的な反例となることを論じた。 "ControlwithoutPRO:AnAgree-basedApproach"では,還元主義の立場から一致によるコントロール分析を推し進め,以下の2点を主張した。(i)義務的コントロールは照応形束縛の一種であり,両者はともに一致により生じる現象である。(ii)名詞表現の音声形式は,一致の結果得られた連鎖に対してフェイズを単位として付与される。これらの帰結として,伝統的0基準を維持しながら,統語的対象物としてのPROおよび文法モジュールとしてのコントロール理論を破棄することが可能となることを論じた。
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