本研究の目的は、Langacker(1999)において提案されているプレーンモデルや参照点構造モデルを発展させた多次元事態認知モデルを提案し、これに基づいて日英語の文法現象を解明することにある。本研究で多次元事態認知モデルの必要性を主張するのは、行為連鎖だけに着目した研究スタンスでは様々な認知的要素を簡略化しすぎてしまい人間に本質的な複合的な認知作用を正しく捉えることができないからである。 そこで本年度は、特に日本語の被害受身文に内在する参照点構造を中心に研究を行った。研究成果はポーランドに於いて開催されたThe10th International Cognitive Linguistics Conferenceにおいて発表された。 また、日本語の受動文に見られる視点制約と、それが無効になる認知メカニズムを扱った論文(「視点制約と日本語受動文の事態把握」)が刊行された。そこでは参照点構造と多次元プレーンモデルがいかに事態認知に関与しているかを明らかにした。さらに日英語の属性叙述受動文の事態把握のメカニズムを明らかにした論文(「多次元プレーンモデルによる構文の拡張-日英語の属性叙述受動文-」)も刊行された。ここでも、多次元事態認知が目英語の受動文の成立にいかに関係しているかを明らかにしている。この論文では特に英語擬似受身文に対し新たな分析の可能性を提案した。最後に、日英語の他動性の低い受動文を取り上げ、その被害性の所在を探った論文(「被害性と語用論的強化-日英語の受身文を例に-」)が刊行された。ここでは、他動性の低い事態認知に読み込まれる被害性は、単なる影響性の延長ではなく、語用論的強化によって概念化者から受動構文に付与された構文の意味であることを論じた。以上、本年度は目英語の受身文に焦点を当て、その事態認知のあり方を探った。
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