研究概要 |
本研究の目的は, Langacker(1999)において提案されているプルーンモデルやLangacker(1993)において提案されている参照点構造モデルを発展させた多次元事態認知モデルを提案し、これを用いて日英語の文法現象を解明することにある。本研究で多次元事態認知モデルの必要性を主張するのは、行為連鎖だけに着目した従来の研究スタンスでは様々な認知的要素を簡略化しすぎてしまい人間に本質的な複合的な認知作用を正しく捉えることができないと考えるからである。 本年度は特に日本語の被害受身文に内在する参照点構造を中心に研究を行った。日本語被害受身文には、対応する能動文には存在しなかった参与者が新たな項として出現するという現象がある。この理由を参照点構造に求め、事態に内在的な参照点構造が拡張することによって、いかに参与者項の増加が可能になるのかを詳細に検討した。この研究成果は、"Reference Point Structure in Japanese Adversative Passives"(Osaka University Papers in English Linguistics12 (OUPEL 12), 79-98)として刊行された。また、本年度は、日本語研究の関心事の一つである「ハ」と「ガ」の問題を扱った。これについては多くの先行研究があるが、認知文法の枠組みでは、詳細な研究はない。一見すると、「ハ」を参照点、「ガ」をトラジェクターとみなしてよいように思われるが、実際には、これだけでは多くの問題が解決されない。本研究では、事態把握のモードの違いによって「ハ」と「ガ」が交替すると主張した。(「事態把握モードと参照点構造-日本語「ハ」の認知構造-」(日本言語学会夏期講座2008ナイトセッション、2008年8月22日、京都大学))
|