研究概要 |
本研究の目的は、Langacker(1999)において提案されているプレーンモデルやLangacker(1993)の参照点構造モデルを発展させた多次元事態認知モデルを提案し、これに基づいて日英語の文法現象を解明することにある。本研究で多次元事態認知モデルの必要性を主張するのは、行為連鎖だけに着目した研究スタンスでは様々な認知的要素を簡略化しすぎてしまい人間に本質的な複合的な認知作用を正しく捉えることができないからである。 そこで本年度は、特に日本語のラレル構文を中心に研究を行った。日本語のラレル構文は、同じラレルという形式を用いて可能、自発、受身、尊敬などの多様な意味を表すが、その認知メカニズムについてはいまだに明らかとされていない。本研究では日英語を特徴づける際に観察される事態内視点という概念をLangackerのステージモデルに組み込むために、このモデルの修正を提案した。ここで提案された修正案を用いると、日英語の類型論的特徴だけでなく、従来のモデルで見過ごされていた僅かな意味の差異も明示的に記述できることが示された。そして、この図式を日本語のラレル構文に適用することによって、自発から可能を経て受身へとラレル構文が拡張する認知メカニズムが明らかにされた(「言語表現に見られる主体性-ラレル構文を例に-」『長野県短期大学紀要』64号,2009,103-114)。 また、本年度は、人間の事態把握のモードとして事態単位事態把握と参与者単位事態把握が存在することを提案した「事態把握の類型-属性叙述文の認知図式化に関する提案-」(『英語研究の次世代に向けて秋元実治教授定年退職記念論文集』吉波弘,他(共編)ひつじ書房,213-225)が刊行された。特に、参与者単位事態把握では、通常、主語以外の位置に生ずる要素が、主語として表現されるようになるメカニズムが明らかとなった。これにより、中間構文、tough構文、受身文などに見られる共通性を認知文法の図式で正しくとらえることができることを示した。
|