本研究の目的は、第一に、異なる接続詞によって導かれる譲歩節の共通点と相違点を明らかにすること、第二に、英語の副詞節全体における、譲歩を表す副詞節の統語的、意味的・語用論的な特殊性を明らかにすることである。平成20年度の研究ではまず、平成19年度の研究で提案したalthough節の五つの分類(標準譲歩、修辞譲歩、訂正譲歩、対比、発話行為)を用いて、although節とthough節の比較を行った。電子コーパスThe Corpus of Contemporary American Englishに2004年から2007年にかけて収録された小説から計192例のthough節の用例を収集、分析し、平成19年度に調査したalthough節の分析結果と比較した。その結果、まず共通点として、although節と同様に前置though節の大部分は標準譲歩を表すのに対し、後置though節の大部分は訂正譲歩を表すことが分かった。一方相違点としては以下のことが分かった。第一に、although節では前置用法の頻度が後置用法に比べてやや高かったのに対し、though節では後置が61%、前置が39%であった。第二に、although節では前置、後置両方に五つの用法全てが見られたのに対し、though節では前置、後置両方に標準譲歩、修辞譲歩、訂正譲歩、対比の用法が見られたものの、発話行為の用法は一例も見られなかった。次に、英語の副詞節全体におけるalthough節の特殊性を明らかにするため、Verstraete(2007)が提案している複文の四分類におけるalthough節の位置づけを検証した。その結果、Verstraeteの主張と異なり、although節は前置、後置どちらの場合も独自の発話内効力を持つことができ、さらに「断定」に加え「命令」の発話内効力を持てるという点で、英語の副詞節の中で唯一、but、and、orと同じ等位接続のカテゴリーに属することを示した。以上の研究により、従来見逃されてきたalthoughとthoughの共通点と相違点、および譲歩節の特殊性を明らかにすることができた。
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