2008年度は、ブラジル人と日本人が共に働く組織でのインタビュー調査を分析し、職場での行動規範がそこに勤務する人々のコミュニケーションの中で、理解、形成されていく過程の一端を明らかにした。 宮谷敦美(2009)「ブラジル人労働者の組織行動規範の理解過程-日本語能力との関連から-」『愛知県立大学外国語学部紀要(言語・文学編)』では、ブラジル人労働者の日本語能力が、職場における組織行動規範の理解に及ぼす影響を中心に記述を試みている。分析の結果、通訳者の存在などから、日本語能力そのものによってブラジル人労働者への組織の行動規範の伝達を阻害されることはない。しかしながら、日々の日本人とのやりとりで注目されるメッセージとその解釈により形成されるブラジル人労働者独自の行動規範は、組織全体で認識されている行動規範と対立したものであるということが明らかになった。この行動規範の形成は、日本人とブラジル人の雇用の形態、および、日本人と自由にコミュニケーションをとれるだけの日本語能力を有している者と、有していない者がいるというコミュニケーション経路の制限があることから生まれていると考えられる。このような対立する行動規範が同時に存在しうるのは、多文化・多言語組織の持つコンテクストの複雑さがその理由として考えられる。
|