本研究の目的は、日本語の文型や構文といった複合構造をなす表現のうち、特に多義的に解釈できるものを外国人が学習する際に、どのような学習順序が効果的かについて考察するものである。初年度に当たる19年度は、当初の研究計画に沿って実態の調査と研究対象の絞り込みを行った。まず、口語に近いデータを採取するための準備として、インターネット上に存在する種々の掲示板(「2ちゃんねる」など)を無作為に30ほど選び、そこでなされた発言(書き込み)をテキストデータ化し、独自の簡易コーパスを作成した。次いで、日本語教材の中から多義的に使用できる表現(複数の用法を持つ表現)をいくつか選定した上で、作成した簡易コーパスでそれらの表現を検索し、使用頻度などを調査した。その中で今回は、否定の副詞から強調の副詞へと変化の兆しを見せている「全然」について特に取り上げ、『「全然」+否定述語』と『「全然」+肯定述語』の2用法に関する調査・研究を行った。そこで明らかになったのは、「全く」のような十全性(十割、100%)を表す副詞や、「とても」「ひどく」といった非常に否定的ニュアンスの強い語が、やがて否定/肯定の枠を越えて強調副詞としての用法を獲得していったように、この「全然」も似たような用法拡張を見せつつあるということである。少なくとも共時的な観点から見た場合には、『「全然」+肯定述語』が特定の語用論的意味と結びついた1つの構文としての地位を確立しつつあると言え、本年度はその用法間の構文ネットワークを明らかに出来た。
|