本年度は、国内外の教育行政、言語教育理論に関する文献研究と、国内JSL生徒の事例研究を行った。 事例研究の成果は以下のとおりである。 ○事例研究 平成19年度から継続している中学生生徒Xの実態把握、及び日本語教育実践を行った。 本年度前半は、Xが在籍する中学校の日本語教室担当教員と連携しながら、Xの学習状況や日本語能力の把握、日本語教育実践を行った。 本年度後半は、Xの自宅で、家庭状況、学習状況、日本語能力の把握、学習支援、日本語教育実践を行った。 事例研究を通して、次のような課題が明らかになった。 ・学校における課題 : 定住型JSL生徒への日本語支援、学習支援が保障されていない。 日本語学級を擁する学校においても、新来外国人生徒への日本語教育が優先され、定住型JSL生徒を受け入れる人的、時間的余裕がない ・定住型JSL生徒の能力把握に関する課題 : 定住型JSL生徒は、日常会話において大きな問題が見られない一方で、読む、書く力や学力が著しく低い傾向がある。こうした読む、書く力や学力の低さば、しばしば、学習障害や発達障害と捉えられる。そのため、定住型JSL生徒に対しては、特別学級での支援が勧められることがある。 JSL生徒Xに対する日本語教育実践において、次の点に留意した。 ・自尊感情を高める。 ・文字、音、意味の結びつきを意識させる。 ・書くことや読むことへの興味・関心を高める。 ・読み、書くテクストの種類や範囲を広げる。 ・学習場面で要求される言語表現を意識させる。 平成21年度は、Xへの日本語教育実践研究の成果をまとめるとともに、他の実践者による実践事例を収集し、定住型JSL生徒への日本語教育実践のあり方を考察する。また、定住型JSL生徒を取り巻く課題を整理し、教育行政への提言をまとめる。
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