1.ベトナム語とタイ語の長さの対立に関する文献研究を行った。ベトナム語には、母音の長さの対立によって意味の違いが生じることはないが、音節構造により母音の長さにはかなり大きな差がある。一方、タイ語には母音の長さの対立による明確な意味の対立がある。 以上のことから、両言語話者の日本語長音習得において、タイ語母語話者には母語の正の転移の影響を、ベトナム語母語話者の場合は母語の負の転移の影響を受ける可能性が高いといえる。 ただし、タイ語においては、母音の長さは音節構造の制約をかなり強く受けることがわかり、日本語の母音の長さの対立とは若干異なることが明らかになった。 2.ベトナム語とタイ語を母語とする初級日本語学習者に対し、日本語の長音知覚実験を行った。この結果は現在分析中である。現在のところ、両者の境界値には差があり、タイ語母語話者の境界値は平均178msであったのに対し、ベトナム語母語話者の境界値は213msであることがわかっている。この差は、タイ語とベトナム語の母語の影響である可能性がある。 この他、長さの弁別感度、及び語彙認識実験も一部実施しており、これらのデータを現在整理中である。 ただし、今回調査対象とした被験者群は、学習月数、学習開始年齢、習得レベル、および人数にやや差があった。ベトナム語母語話者(20名)は日本語学習期間が4カ月程度の初級前半レベルの学生であり、18歳より日本語学習を開始した学生群であったのに対し、タイ語母語話者(9名)、日本語学習期間が1年以上の中級前半レベルの学生で、16歳前後に日本語学習を開始した学生であった。 このため、来年度の調査では、これらの属性のより近い被験者に対して、改めて実験を行う予定である。
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