本研究課題の一つの区切りとなったこの三年度目には、夏期休暇期間を利用し、ローマ支配時代にラテン語の幅広い浸透の見られた、北アフリカ地域(チュニジア)への研究旅行を実施し、その地域における土着語(フェニキア・カルタゴ(ポエニ)語、リュビア語)とラテン語の接触の様態を確認した。また次いでエジプトにも赴き、その地のエジプト語、ギリシア語、ラテン語三言語使用の状況を調査した。また一方で北にも関心の幅を広げ、プリタンニア(現イングランド)における古代の温泉保養地バースで発見されている「呪詛板」文書の検討も行った。これは盗難にあった物品の返還を、バースの温泉湧出地に宿る女神(スリス=ミネルウァ)に願うため、盗人を呪う文言を鉛板に記して源泉に投げ込んだものが発見されたものであるが、そこに記された盗品の「些細さ」から、中下層民の手になるものと推測される。その言語(ラテン語、及び島嶼ケルト語?)は、ブリタンニアへのラテン語普及について、多大な情報を提供してくれるものであり、その成果の一部は既に雑誌に発表し、また平成22年6月の「西洋古典学会」にて報告する予定である。 さてこの三年間の成果は、現在出版計画及び執筆の進んでいる共著『(仮)ラテン碑文で楽しむローマの歴史』(研究社)の中の、ローマ共和政期におけるローマとイタリア半島の言語についての章、そして単著『古代史テキストシリーズ(仮)多言語の地中海世界』(聖公会出版)での記述を通じて、来年度以降に社会へと還元していく予定である。こうしたことからも、本研究への三年にわたる補助の成果が、大変実り多いものであったことを証明できるものと思う。
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