*本年度は、まず薬師寺を対象として、南都の地域社会における寺院の社会経済史的な機能の分析のために、同時所蔵の記録類の撮影に取り掛かった。これにより過去に史料編纂所により撮影された記録類と合わせて、年頂が残した前近代の記録の九割近くが分析に利用できるようになった。ただし新たに寺家の財務に関する帳簿類が見つかったので、これらの撮影にも着手し、分析材料を調えなければならない。*また薬師寺の本寺である興福寺の記録類(「尋尊記」など)から薬師寺に関係する記事の抽出に着手し、刊行史料については終わりつつあるので、今後は未刊のものと文書類の調査を行う予定である。*一方で、京都上京今宮神社を紐帯として天正期にはまとまりを見せるようになった芝大宮町の新出史料を整理した。芝大宮町に関する史料は「史料京都の歴史7」(京都市編)にも一部紹介され、京都市歴史資料館に原本が寄託されているが、今回新出の史料は京都市の調査当時に不明になっていた部分をちょうど補うものである。両方を合わせれば、中世末から近世初の芝大宮町の内実と町と今宮神社の関係を通時的に知ることが出来る。本年度は芝大宮町の了解のもとに歴史資料館に寄託されている史料を撮影したので、次年度以降に新出史料を翻刻紹介し、両方を合わせた内容の分析を公表したい。*また畿内からやや離れるが、石見東部の江の川流域の大貫村の真言宗興盛寺を開創した中村家が所蔵する検地帳などの土地帳簿類について、初めてその全体を明らかにし紹介した。
|