本年度は研究の最終年度にあたり、一定の成果を出すべく、幕末・明治期の「脱教団的」僧侶である佐田介石について以下の作業を行った。1、昭和初期に介石を研究・顕彰した仏教社会学者・浅野研真について、彼が遺した膨大な文書群の目録を完成させる。2、介石の後を追った無名の仏教者の動向を解明する。3、それらを近年の宗教学・歴史学の研究成果の中に位置づける、という3点である。具体的には、1では国立国会図書館等での史料調査によって、新聞雑誌スクラップ史料の出典特定につとめ、ほぼ特定作業は終了し、介石関係の研究資料の翻刻も進めた。2では介石の弟子を自称する僧侶の足跡について、東京大学法学部明治新聞雑誌文庫や横浜開港資料館などで新たな史料を発見し、その検討に取り組んだ。当初は彼らの住んだ山形県鶴岡市・静岡県沼津市や、浅野の出身地・名古屋市などでの聞き取り・史料収集も行う予定であったが、それ以前に、むしろ大都市での言論・結社に従事した介石と弟子たちの活動の特質が浮かび上がったという格好である。そして3では、前年に刊行した明治前期の仏教に関する著書の内容を発展させ、学術雑誌や学会で成果を世に問うとともに、当該期の宗教史・思想史に関する学術論文の最薪動向を検討し、学術雑誌に公表した。以上の結果、宗派の枠に縛られず活動する近代的な僧侶や、彼らを時に利用し、時に熱狂する民衆のありようがある程度明確になった。そして過年度での成果とあわせて、佐田介石とそのフォロワーたちの全貌を解明する総合的研究の基盤はいよいよ固まったといえる。
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