本研究の目的は、長登銅山跡出土木簡の正確な釈文を作成すること、およびその成果を用いて古代官営工房の運営システムを具体的に明らかにすることである。19年度は木簡の釈文を検討するため、木簡所蔵機関である美東町(現在の名称は美祢市)教育委員会に赴いて木簡の調査を行なう計画であったが、当該自治体が市町村合併を控えて業務多忙であり、研究協力を依頼することができなかった。よって19年度は長登銅山跡出土木簡に関する先行研究を批判的に検討し、公表されている釈文に基づいて木簡群全体の性格に関する再検討を行った。この検討作業自体は本研究費採択以前から継続して行っているものであり、その成果の一端は、本研究採択決定の直前に刊行された松村恵司・栄原永遠男編『和同開珎をめぐる諸問題(一)』(2007年3月刊行)に発表済みであるが、19年度はその内容をさらに充実させるべく、検討を行った。この成果については、20年度中に査読付学術雑誌へ投稿する予定である。 また、本研究では長登銅山跡出土木簡の性格を、他の史料との比較によってより正確に分析することも目的としている。まず比較対象史料として正倉院文書を取り上げることとし、本年度は研究環境を整えるために正倉院文書続々修の写真版(マイクロフィルム紙焼)の約半数を、本研究費を用いて購入した。残り半数については、20年度に購入する予定である。 その他、関連する研究成果として、春日離宮付属の造酒官司と考えられる「春日酒殿」について、離宮推定地から出土した木簡を用いて検討を加え、古代官営工房の存在形態の一端を明らかにした。この研究成果は、論文「春日寺考」(大和を歩く会編『古代中世史の探究』所収)にて公表した。
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