本研究は、明清時代における官僚組織の中心を構成した「進士」(科挙合格者)に関するデータベース(合格年齢・死亡年齢・試験科目・官歴等を項目とする)構築を、一つの基礎作業としている。本年度においては、その作業の一環として、台湾に現存する明代進士名簿「同年歯録」の調査・実見・筆写を行った。これによって、データベースの母集団を増加させることが出来、そこから導き出される結論の客観的な精度を更に高めることが可能となった。 また、台湾に所蔵されるこれらの名簿は、既に四十年程前に影印出版されているものであるが、今回それらを実見することで、出版時における撮影上の技術的な問題によって、本来名簿が有する多様かつ重要な情報(具体的には、複数の人間による多数の「書き込み」)が影印本には写っていないことが判明した。そこでこれらの書き込みをその他の史書・文集・地方志等に見える記事と比較検討を行い、その結果として、「名簿」編纂の始末や、伝世の一事例を具体的に明らかにした。同時に、名簿の持つ、視覚的に官歴を他者と比較できるという体裁が、子孫にとっては重要な意味があったことを指摘した。現段階では一名簿を対象にした小さな事例研究の域を出ないが、先行研究が、「同年歯録」を単なる官僚履歴の記録資料としてしか扱ってこなかったことを考えれば、現存するその他の「同年歯録」の性格を多角的に調査・研究する際の基礎とすることができる。この成果の一部は、「明代の「同年歯録」が語る進士とその子孫-『嘉靖丙辰同年世講録』を中心に-」(集刊『東洋学』、第九八号、二〇〇七)において発表した。
|