本年度(平成20年)は、前年度(平成19年)に引き続き、「進士」(科挙合格者)に関するデータベースの構築を基礎作業として行った。とりわけ明代嘉靖期に関しては、文献史料との比較を行い、その情報を充実させることができた。そしてその作業の過程で、「同年歯録」(私的)と「登科録」(公的)の二種類の科挙合格者名簿の間で、個人情報に食い違いがみられることを見い出した。 特に着目したのは「生年月日」の食い違いである。日本でも、江戸時代において大名家の家督相続に関する規定から、公私二種類の年齢の使い分けがあったことが指摘されている(例えば、大森映子氏の研究)。中国でも、「官年」と「実年」の存在は古く宋代の文献にも現れ、知られてはいたが、その研究は曖昧な印象論が多く、多数の実例に基づいた正面からの研究は、陳長文氏の研究(2008)以外無かった。 そこで、本研究によるデータベースを用いて、「同年歯録」「登科録」両者記載の生年情報を比較し、どの程度科挙受験者の間で普遍的に年齢操作が行われていたのか、またその年齢幅如何といった、具体的な側面に関して検討を進めた。その結果、陳氏の研究に一部訂正を加え、研究を更に一歩進めることができた。そしてその成果について、「漢学研究与中国社会科学的推進国際検討会」(9月、於杭州)及び「第四届科挙制与科挙学学術研討会」(10月、於天津)二つの国際学会で発表を行った。後者では、陳氏から有益な助言を受け、更に今後の研究にいかせると考えている。
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