研究概要 |
本研究「清朝の八旗と塩政に関する研究」は, 満洲人の王朝・清朝(1616〜1912)の支配層である旗人集団が, いかにして国家財政の重要収入源である塩政(食塩の生産・販運)に関与していたかを明らかにすることで, 清朝の特質を解明しようとするものである。 本年平成20年度は, 京師である北京に近い天津を中心として当該地の塩政に関与していた長蘆塩商査氏の一族(宛平査氏)を昨年に引き続き取り上げた。査氏が出身地である浙江省海寧県においてどのような勢力を有していたかを分析するため夏季休業期間中に浙江図書館に赴いて, 海寧査氏の家譜の調査を行った。また, 天津においてこの宛平査氏を支配していた, 長蘆の大塩商張霖についても宮廷内の有力者との関係を中心に分析を行った。さらに, 康煕年間(1662〜1722)の有力満洲旗人であるイェへ=ナラ氏のミンジュ父子が, 本来は民人である長蘆塩商安氏を自らの家人として八旗の支配構造の裡に組み込み, 国家財政に介入していた事実を指摘した。また雍正帝も, 塩政上ミンジュの影響下にあった地域を, 自らの旗王時代の旧臣や, 皇帝家の家政機関である内務府に所属する包衣(ボーイ=ニヤルマ)に管理させ, 前政権の有力者から財源を回収していったことを確認し, これが戸部の財源である塩政に例外をもたらし, 内務府に納銀する特殊な地域を生み出したことを明らかにした。これらの成果は, 従来の研究では積極的に結び付けられることのなかった財政史と八旗史との融合を積極的に意図したものであり, 今後の研究の継続に充分に生かすことができると考えられる。
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