中国福建省は伝統的に父系同族組織である宗族の結束が強く、地域の自立性が高いと考えられる地域である。本研究では福建省を事例として、近代における国家-社会関係の変容、地域の社会構造の変動を考察する。特に2007年度は、1930年代から40年代の国民政府の統治の下で、同族結合を軸とする地域社会の構造がどの程度まで変容したのか、また国家-社会関係にいかなる変化が生じたのか、などの問題について、福建省档案館所蔵の「民政庁档案」や福建南西部農村での聞き取り調査を通じて、歴史社会学的視角から検討を加えた。2007年度は、本研究で必要となる福建省政府の「民政庁档案」を中心とする未刊行档案資料、地方新聞・雑誌、族譜資料を、申国福建省の福建省档案館、福建省図書館、福建師範大学図書館、厦門大学図書館などで収集した。また福建省南西部の龍巖県、上杭県、連城県などで、フィールドワークを実施した。その内容は以下のとおりである。地域の宗族の宗親会などを通じて、地域の故事を知る老人を紹介してもらい、聞き取り調査を行った。宗親会や個人が所蔵する民間文書(新編族譜、宗族関係文書、郷鎮級文史資料)を収集した。さらに実地で現地村落を見聞歩くことにより、村落空間構造を確認した。またそれ以前に資料収集を終えていた1920年代の経済変動についての研究を論文にまとめた。これは民国時期の福建省の経済変動を地域の視角から考察し、それと共産党による土地革命との相関関係を考察したものである。
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