本研究の目的は、中国民衆の生活の「場」である地域社会に着目し、近現代中国における社会変容を考察することである。またエリートや知識人の視点から歴史叙述を乗り越え、人口の大部分を占めた民衆にとっての中国近現代史像を構築する作業の一環として位置づけられる。特に中華民国時期から中華人民共和国建国初期の福建省を事例として、中国国民党政権や中国共産党政権による国家建設事業や革命を経て、地域の社会構造(例えば同族結合や土地制度)がどのように変容したのかを探求する。以上の目的に基づき、本年度は福建省南西部に位置する龍巖市において現地調査を行った。福建省南西部の山区に位置する龍巖市では、宗族結合が強く、巨大な土楼と呼ばれる集合住宅に一族が集住している。同地域で老人から聞き取りを行うことにより地域の歴史についての口述資料を収集すると同時に、民間に所蔵されている宗族の族譜や民間信仰に関する資料を収集した。また調査対象である適中鎮の地域を可能な限り踏破し、当地の人文地理を自身の目と足で確認するよう努めた。具体的には鎮-村落のレベルにおいて、血縁・地縁・神縁や言語により人と人とがいかに結びついているかを検討した。こうした問題関心に基づき、風水による村落の民俗的境界のあり方、民俗宗教の信仰圏、宗族の移住範囲、方言の範囲の解明に努めた。併せて土地改革や集団化の実態について聞き取りを進め、伝統的な人と人との繋がりの範囲と集団化の範囲り相互関係を考察した。 なお地域史を深く理解し、またフィールドワークを実施するためには、現地の研究者との交流、協力関係の構築が不可欠となる。平成21年度においては、福建地域史の専門家である〓田学院の兪黎媛講師を築波大学に招聘し、研究報告会を実施した。
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