本年度はラホール(パキスタン)およびカラチ(同)での資料調査(宗教関連施設を含む)を計画していたが、現地の情勢に鑑みて次年度にこれを先送りし、今年度は国内でなし得る調査に注力した。インド、パキスタンで出版されている、南アジアのイスラーム史関係、とくにイスラーム神秘主義やイスラーム社会の聖人に関係する資料を探索、入手して所属機関に備えた。とくに現地図書館の手写本資料の目録については、日本の公的機関に所蔵されていないものも手に入っているので、次年度以降の現地での資料調査をより綿密かつ効率的に実施できることになったものと考えられる。また英国の図書館に所蔵されている未公刊の聖人伝資料、イスラーム神秘主義関係文献等の複写も入手した。さらにこれらの資料と既存の資料を、補助者の支援も得ることによって、電子的な画像データとして整理し、そのテキストデータの一部を電算機に入力して、分析に供した。以上によって得られたデータを参考にしつつ、南アジアの海港都市スーラトに、メッカ巡礼船の発着地としての意義を見いだし、インド洋海域におけるイスラーム・ネットワークの広がりの一端を明らかにした。この知見は、南アジア社会のイスラーム化とイスラーム世界他地域との交流との関係を考える上で、少なからぬ意味を持つものと思われる。なおこれについては韓国・釜山における国際シンポジウムの基調報告として発表したが、その内容を学術論文として主催者側の論集に寄稿するよう依頼を受け、目下執筆中である。
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