13世紀から17世紀における南アジア社会のイスラーム化の諸相を歴史文献学にもとづいて明らかにすることが本研究の目的である。本研究では社会のイスラーム化を一定地域におけるイスラーム教徒人口が増加するプロセスと見なし、その変化の現象を以下の三つのテーマ、すなわちA.イスラーム教徒の来住、B.在来宗教の信徒のイスラーム改宗、そしてC.在来宗教の信徒のイスラーム教徒による物理的排除、に分解して、それぞれ研究を進める。これにより、テュルク化、ペルシア語化そしてイスラーム化という三つのプロセスが並行的に進行したこの時代の諸相の一端を明らかにし、この時代の南アジア社会の動態を総合的に理解する一助とすることを本研究は目指している。本研究の基礎的な素材となる歴史文献は大まかに分類すると(1)聖人伝、(2)イスラーム神秘主義関係文献、(3)名士録、(4)詩人伝であるが、その多くがいまだ公刊されておらず、手写本の状態で世界各地に所蔵されている。このため所蔵先から手写本の複写を購入したり、これが不可能な場合には実地調査を行ったりすることによって、これらの文献の内容を解読・整理することが本研究の主たる内容となる。
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