今年度は本課題のテーマのうち、『大唐開元礼』に集大成された古典的軍事秩序が、歴史的にどのような過程を経て生まれてきたのかについて考察するための基礎作業として、北朝期の講武・田猟・射礼について、主として正史や類書類から実施例を抽出し、データベースを作成した。 当該時期の講武・田猟は郊外で行われる事例が多いこと、特に北周期には講武の開催時季が冬季に集中するようになることなど、『開元礼』に連なる特徴も読み取れた。しかしその一方で田猟が季節性とさほど関係なく、頻繁に行われている点などは、鮮卑族の伝統との関連が想起され、『周礼』など中華の礼学を引き継ぐ面といかなる継承関係を描けばよいのか、数量的傾向のみからは十分解析しきれなかった部分も残る。また軍事色の薄い共同体的儀礼の面が強い射礼については、北朝期の記録がごく稀にしかおらず、軍事儀礼全般の単純な漢化と図式化できない部分も見られた。 そこで小林聡氏が衣冠など個々の儀礼を礼学一般の歴史的過程との関連から読み解いた方法を、軍事儀礼にも適用し、『開元礼』に連なる軍事秩序のたどった歩みを質的な面から再整理していく作業に着手した。作業を進めるに当たっては、最近梁満倉氏によって示された、曹魏以降の講武に対する『周礼』の影響についての通時的な展望 (「論魏晋南北朝時期的講武」『唐研究』13巻、2007年12月)を合わせて検討したが、講武以外の儀礼との整合性をどのように跡づけるか等が課題として残った。
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